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現代になって人間に突きつけられた問題とは?
現代は科学技術が高度に発達した時代である。
その科学技術によって、人間にできることは飛躍的に増えてきた。
たとえば、医療技術の発達によって、むかしは手の施しようがなく、死にいたるしかなかった人の命を救えるようになった。
あるいは、工業技術の発達によって、石炭や石油、天然ガス、鉄鉱石などの地下資源を利用して、さまざまな製品を生み出したり、交通を発達させたりしてきた。
また、最近では、コンピュータ技術の発達によって、人間の力だけではとうてい不可能な計算や予測を行えるようになった。
しかし、科学技術によって人間にできるようになったことは多くなった一方で、問題も起きてきた。
たとえば、医療技術の発達は、人工妊娠中絶や脳死臓器移植、安楽死・尊厳死などの問題として、生と死の境界の判断を人間に突きつけている。
また、地下資源の利用は、CO2(二酸化炭素)の過剰な排出によって地球温暖化をもたらし、地球環境に対する人間のふるまいの再考を迫っている。
さらに、AI(人工知能)の急速な進展は、たとえば、自動運転車が他車との衝突を避けようとすれば歩道の子どもをひいてしまうという状況にどう対処するプログラムを組めばいいかという難題を人間にもたらしている。
こうした現代の問題は、これまでの倫理学の理論や学説では対応しきれないことが多い。
そのため、従来の倫理学の理論や学説を援用しつつも、新しい考え方を採り入れた応用倫理学が発展してきた。
その応用倫理学をはじめて学ぶのにふさわしい入門書を、以下に紹介しよう。
オススメの入門書
『実践・倫理学』
まずは、『実践・倫理学』である。
著者は、『功利主義入門』『功利と直観』など、主に功利主義に関する入門書や解説書を多数著している倫理学者の児玉聡氏である。
その児玉聡氏いわく、「本書の目的は、水泳の泳ぎ方を身につけるのと同じような意味で、現代社会における倫理的問題について哲学的に考える仕方を読者に身につけてもらうことである」(「はしがき」)。
「現代社会における倫理的問題」として取り上げられているのは、死刑制度、自殺と安楽死、喫煙、動物愛護と肉食、災害時の行動などである。
それぞれの問題について、どのような議論や立場があるのかが紹介されているので、それぞれの論点がわかるのはもちろん、読み進めながら、読者自身が自然と、その問題について考えることができるようになっている。
書き方も平易で、予備知識がなくても読めるので、まさに哲学(倫理学)初学者の最初の1冊にふさわしい。
『はじめて学ぶ生命倫理』
応用倫理学には「〇〇倫理学」と名づけられたいくつかのサブカテゴリ―があるが、そのなかで重要なものの1つに「生命倫理学」がある。
本書『はじめて学ぶ生命倫理』の著者・小林亜津子氏によれば、「生命倫理学」とは、「人間の生と死、『いのち』の『始まり』と『終わり』のあいだに起こるさまざまな問題と向き合う学問」(「はじめに」)である。
本書『はじめて学ぶ生命倫理』では、その生命倫理学が対象とする問題のうち、安楽死、精子バンク、人工妊娠中絶、自己決定権、結合双生児の分離手術など7つのトピックが取り上げられている。
こうしたトピックに共通するのは、「『いのち』を誰が、どのようにして決めるのか」(「はじめに」)という問題だ。
そして、読者1人ひとりが「自分の頭を使って、のびのびと自由な発想で『いのちの決定』について考えてもらうための『場』を提供」(「はじめに」)しているのが、本書の特徴である。
ぜひ、生命倫理にまつわるモラル・ジレンマを考えてみてほしい。
『はじめて学ぶ環境倫理』
応用倫理学のサブカテゴリ―のなかでもう1つ重要なのが、「環境倫理学」である。
本書『はじめて学ぶ環境倫理』の著者・吉永明弘氏によれば、「環境倫理学」とは、「身のまわり」の問題に対して「『べき』とか『するな』という言い方で規範的な価値判断をする」(「はじめに」)ための学問である。
そうした環境倫理学のスタンスのもと、将来世代へ配慮すべき理由や地球環境問題への有効な手だてがなかなか打てないでいる原因、種を絶滅させてはいけないわけ、都市の住人が地球環境問題の解決に貢献できる方法、〝良い自然再生〟と〝悪い自然再生〟の違いなどについてやさしく述べている。
本書『はじめて学ぶ環境倫理』を読み進めていけば、環境倫理学の考え方がしだいに理解できるようになるとともに、地球規模の問題を「自分の話」としてとらえることができるようになるはずだ。
『はじめての動物倫理学』
応用倫理学のなかでも、最近重要になりつつあるのが「動物倫理学」である。
「動物倫理学」とは、人間の動物との関わり方の是非を問う学問である。
本書『はじめての動物倫理学』では、ペットや動物の飼育、畜産や肉食、動物実験、狩猟や害獣駆除などの問題が取り上げられている。
こうした問題に共通しているのは、「動物の道具視」である。
そして、「動物の道具視」を克服するために、著者の田上孝一氏は、「現行の動物利用のあり方を批判し、動物を使わない文明とライフスタイルを、これからの人類は構築すべきだという話」(「はじめに」)を、あくまでも倫理学的に語っている。
読者によっては、自分のライフスタイルを批判されているかのような不快感を覚えるかもしれないが、今後の倫理学の主流になるであろうテーマに入門するのにふさわしい。