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難解な哲学書の読み方を教えてくれる先生なんて、むかしはいなかった
哲学書は、むずかしい。
プラトンの対話篇やデカルトの著作など、比較的読みやすい哲学書はあるが、他の哲学者たちの著作はこぞって難解だ。
なぜ、そうなのかの一端は、「哲学用語をきちんと理解するのにオススメの事典」で紹介した。
他にも、文章が日本語として通用していないなど、いくつか理由はあろうが、いずれにせよ哲学書を〝読んで理解する〟のはなかなか至難のわざである。
むかし(昭和の時代)は、哲学書に限らず、むずかしい専門書を学生に何冊も読ませる先生が多かった。
なのに、先生が読み方を懇切丁寧に教えてくれるなんてことはまずなかった。
とにかく学生に読む経験を多くさせれば、そのうち学生は読めるようになる、それでも読めないヤツは読もうという意思と努力が不足している――
そう信じている先生が、当時は多かったのではなかろうか。
でも、今は違う。
少子化で学生数が減り、大学が学生を選ぶのではなく、学生が大学を選ぶ時代になると、難解な本の読み方を懇切丁寧かつ体系的に手ほどきしてくれる先生がチラホラ現れるようになった。
もっとも、そうした先生の多くは、「学生に読む経験を多くさせれば、そのうち学生は読めるようになる」と信じる先生のもとで、自己流か独学で、むずかしい本を読めるようになったのだろう。
そうした自分で身につけたノウハウをもとに手ほどきしてくれるのだと思う。
そんな手ほどきを受けられるオススメの解説書を紹介しよう。
オススメの解説書
『難解な本を読む技術』
まずは、『難解な本を読む技術』である。
著者は、現代思想とメディア論が専門の高田明典氏である。
その高田明典氏が、思想系翻訳書を読み解く方法を指南している。
具体的には、まず、どの本から読むべきかという「棚見」によって読む本を決め、次に、選んだ本を一度通読してから改めて詳細に読み進めつつ、読書ノートをとり、さらにさまざまな視点によって対象の本を位置づけながら、読み込んでいくという方法だ。
高田明典氏の読解法が余すところなく披露されるとともに、読者がすぐに実践できるように体系化されている。
後半には、実際の読書ノートの記入例や、スピノザ、ウィトゲンシュタイン、フーコー、ドゥルーズなどの本の読み解き方も紹介され、前半で語られる内容をしっかり理解する大きな助けとなっている。
本書『難解な本を読む技術』の助けを借りて、難解な本を1冊でも読むことができれば、高田明典氏いわく、「多くの人が生涯かけても絶対に到達できない地点に立って、この世界を見ることができるようになる」(「第1章 基本的な考え方」)。
『難しい本をどう読むか』
次は、『難しい本をどう読むか』である。
著者は、テレビや雑誌など各種メディアへの露出が多い齋藤孝氏である。
その齋藤孝氏が、難解な古典的名著を読むための「共通ルール」と、具体的な解読法を指南している。
「共通ルール」とは、「解説書に頼る」「時代背景・著者の動機を理解する」「著者の『好き・嫌い』に注目する」「肝になる部分だけしっかり読み解く」「キーワードを攻略する」「3色ボールペンを使いながら読む」「著者の主張に耳を傾ける」の7つである。
そして、その「共通ルール」にのっとって、『精神現象学』(ヘーゲル)『資本論』(マルクス)『ツァラトゥストラ』(ニーチェ)『論理哲学論考』(ウィトゲンシュタイン)『存在と時間』(ハイデガー)『善の研究』(西田幾多郎)『21世紀の資本』(ピケティ)など、14の名著の読み解き方を解説している。
本書『難しい本をどう読むか』を読んだからといって、すぐにむずかしい本を読み通せるようになるわけでは決してない。
しかし、全部は通読できなくても、その著作のなかのもっとも重要な部分だけでもしっかり読み込めば、その著作の息吹に触れ、なんらかの問題意識を得ることは可能だ。
そうした意味では、「共通ルール」のなかの「肝になる部分だけしっかり読み解く」というのが、最重要ポイントになるのではなかろうか。
東京大学を出て、大学教授をしている学者でも、むずかしい本を読むのはハードルが高いのだということがわかり、妙に安心できるという効能もある1冊だ。