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1位は『存在と時間』、2位は『論理哲学論考』、3位は……?
先日、光文社古典新訳文庫シリーズに収められている、ヴィトゲンシュタインの『論理哲学論考』を久しぶりに見返した。
本書の冒頭には、野家啓一氏の「高校生のための『論考』出前講義」が収録されている。
すると、そのイントロ部分で、世界哲学会議に集まった哲学研究者たちに、もしも「20世紀を代表する哲学書ベストスリーを挙げてください」というアンケートをとったとしたら、「おそらく10人のうち9人まではハイデガーの『存在と時間』(1927)とヴィトゲンシュタインの『論考』(1922)をまず選び、残り一冊をどれにするかで頭を悩ますに違いありません」と書かれているのが目にとまった。
これまでは、あまり気にもとめなかった箇所だ。
この一文を読み、〈ぼくなら3位に何を選ぶだろうか……?〉と、しばし考えてしまった。
20世紀は、近代哲学への批判が高まった時期で、「反哲学の時代」と言われる。
「反哲学」とは、哲学者・木田元氏(1928/9/7-2014/8/16)によれば、〝西洋という文化圏に特有の考え方を乗り越えようとする思考作業〟のことで(『反哲学入門』p.5)、ニーチェ(1844-1900)あたりから始まったとされる。
つまり、20世紀哲学(現代思想)の特徴は、近代までの、客観的な存在を前提した考え方を捨て、客観的な存在を前提しない考え方へと転換した点にあるのだ。
そうした特徴を示す哲学書こそが、3位に入るべきだろう。
3位はヴィトゲンシュタインの『哲学探究』か?
2位のヴィトゲンシュタイン『論理哲学論考』は、実は、〝世界と言葉は1対1対応する〟(「写像関係」にある)と考えた点で、客観的な存在を前提している。
その点では、たしかに20世紀を代表する哲学書といえども、従来の哲学の延長線上にあり、居心地が悪く見える。
しかし、その後、ヴィトゲンシュタインは、「写像関係」の考え方を捨て、〝言語は、生活の場面に応じて使われ方が変わり、さらに、そうした生活のあり方=「生活形式」に従って意味が確定する〟という「言語ゲーム」の考え方をとるようになった。
この考え方では、客観存在は前提されない。
そして、この「言語ゲーム」の考え方を明らかにしたのが、『哲学探究』である。
『哲学探究』は、その後の哲学や社会科学に大きな影響を与えた。
とすれば、『哲学探究』を3位にするのが妥当なのかもしれない。
それとも3位は『資本論』か、あるいは『ツァラトゥストラ』か?
でも、ヴィトゲンシュタインの著作が2位と3位を占めるのはどうも……。
それに、影響を与えたという点で言えば、他にもっと影響力を与えた著作がある。
20世紀は社会主義の時代と言われたりもするが、その原点になったのが『資本論』だ。
何ヵ国語にも翻訳され、文字どおり世界中の人びとに読まれ、社会主義運動の原動力となった。
ポスト構造主義の思想家・アルチュセールに大きな影響を与えてもいる。
20世紀を代表する哲学書の1冊であることはまちがいない。
あるいは、ニーチェの『ツァラトゥストラ』も、20世紀に大きな影響力があった。
本書でニーチェが唱えた「神は死んだ」「超人」「永遠回帰」という概念は、ハイデガー、フーコー、デリダら、現代思想の大御所に大きな影響を与えた。
こう見てくると、『資本論』も『ツァラトゥストラ』も、影響力という点では『哲学探究』の比ではない。
しかも、『ツァラトゥストラ』は、客観的存在を前提しない。
けれども、1つ大きな問題が……
『資本論』も『ツァラトゥストラ』も、20世紀に大きな影響力があったが、20世紀に刊行された著作ではない。
『資本論』は1867年、『ツァラトゥストラ』は1885年だ。
だとすれば、やはりどちらも3位にするには居心地が悪いか……。
結局、3位はフッサール『イデーン』
ということで、20世紀に刊行され、客観的存在を前提せず、かつ、20世紀に大きな影響を与えた「20世紀を代表する哲学書」の3位としてぼくが挙げるのは、フッサールの『イデーン』である。
その理由は、〝刊行されたのが1913年〟で、〝客観的存在を意識作用に還元〟し、〝ハイデガー、サルトル、メルロ=ポンティなど、20世紀の哲学者に大きな影響を与えた〟からである。
『イデーン』はフッサールの主著であり、「現象学的還元」「本質直観」「ノエシス/ノエマ」など、フッサールが唱えた重要な概念が数多く出てくる。
フッサール現象学を理解するなら必読の書だ。
フッサール現象学を学びたい人にオススメの入門書
『現象学入門』
ぼくは、むかし、哲学のテの字も知らないのに、いきなり『イデーン』を読みはじめ、すぐに完全ノックアウトされた経験がある(汗)
もしも、あなたが『イデーン』を読んでみたいと思うのなら、いきなり『イデーン』にとりかかるのではなく、フッサールの入門書から読んでいったほうが無難だ。
いちばんのオススメは、竹田青嗣(たけだ・せいじ)氏の『現象学入門』である。
ぼくがいちばんお世話になった本だ。
上記フッサール現象学の重要概念を理解するのに、かなり役立った。
1989年の刊行なのに、いまだ版を重ねているというから驚きだ。
もはや定番を超えて〝古典〟の域になりつつある。
『フッサール』
加藤精司著『フッサール』(人と思想シリーズ)もオススメだ。
フッサールの思想について解説されているのは全体の半分程度だが、残りの半分でフッサールの人となりが解説されているので、とっつきやすいし、フッサールの思想が生まれた背景を知ることで、抽象的で難解な彼の思想をいくらかでも理解しやすくなるはずだ。