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『資本論』が再評価されるワケ
派遣切りやリストラ、経済格差、金融不安や金融危機、気候変動など、資本主義の問題があらわになってきたのと比例するように、マルクスの『資本論』を読む人が増えてきたそうである。
たとえば、ジュンク堂書店や紀伊國屋書店などの大型書店に行くと、マルクスの思想や『資本論』の内容を解説した本が数多く出版されているのがわかる。
マルクス『資本論』の再評価は、日本だけの現象ではなく、マルクスの母国・ドイツをはじめ、海外にも見られるらしい。
では、なぜ『資本論』なのかというと、第1に、『資本論』では資本主義が徹底的に分析され、今の世の中で起きていることがまるで〝予知〟されていたかのようなことが書かれているからだ。
たとえば、ワーギングプア、ブルシット・ジョブ、リストラ、失業……といったことだ。
これらは、資本主義のシステムが起こす必然なのだという。
だから、「働き方改革」で状況を改善しようとしても、それはあくまでも〝一時しのぎ〟にしか過ぎないことになる。
また、グローバル資本主義が気候変動を引き起こすまでに〝暴走〟してしまった理由も、『資本論』の見かたを敷衍すれば理解することができる。
〈資本主義をこのままの状態で放っておけば、社会は、いや、人類は、地球は、滅びてしまう! どうすればいいのか……?〉
そう考える人たちが、資本主義の問題を解決するヒントを与えてくれると期待するのも、実は『資本論』である。
これが、『資本論』が読まれる第2の理由だ。
そして、この第2の理由を特に意識して書かれ、ベストセラーとなったのが、『人新世の「資本論」』である。
オススメの解説書
『人新世の「資本論」』
マルクスの『資本論』はむずかしい。
だから、『資本論』そのものを読む前に、途中で挫折しないように、『資本論』を読むためのモチベーションづくりをしておいたほうがいい。
その目的に最適なのが、上記で紹介した『人新世の「資本論」』である。
著者は、経済思想と社会思想が専門の斎藤幸平氏だ。
2020年9月に刊行された本書『人新世の「資本論」』は、予想外の売れ行きで、30万部を超えて売れるベストセラーとなり、「新書大賞2021」(中央公論新社主催)を受賞した。
斎藤幸平氏が本書『人新世の「資本論」』で試みるのは、地球が環境崩壊を起こす前に、終わりなき利潤追求が宿命の資本主義に代わる社会のあり方を示すことだ。
その作業のために『資本論』が参照される。
つまり、本書『人新世の「資本論」』を読めば、資本主義に代わる社会のあり方のヒントをさぐるために『資本論』を読んでみようというモチベーションをもちやすくなるのである。
なお、斎藤幸平氏は、『NHK100分de名著 カール・マルクス『資本論』』というコンパクトな入門書も著している。
『武器としての「資本論」』
『資本論』を読むためのモチベーションづくりにふさわしいもう1冊は、『武器としての「資本論」』だ。
著者は、『永続敗戦論』『国体論』などの著作がある白井聡氏である。
その白井聡氏は、「はじめに」で、こう語っている――
『資本論』のすごいところは、一方では国際経済、グローバルな資本主義の発展傾向というような最大限にスケールの大きい話に関わっていながら、他方で、きわめて身近な、自分の上司がなぜイヤな態度をとるのか、というような非常にミクロなことにも関わっているところです。そして、実はそれらがすべてつながっているのだということも見せてくれます。言い換えれば、『資本論』は、社会を内的に一貫したメカニズムを持った一つの機構として提示してくれるのです。ここが『資本論』のすごさなのです。
この『資本論』のすごさを読者にストレートに伝え、「この世の中を生きのびるための武器」として、「みんなが一生懸命『資本論』を読むという世界が訪れてほしい」という動機で書かれたのが、本書『武器としての「資本論」』である。
だから、『資本論』を読むためのモチベーションづくりには、やはりピッタリなのである。
『高校生からわかる「資本論」』
『資本論』の副読本としてオススメできるのは、まず、『高校生からわかる「資本論」』である。
著者は、テレビなどでおなじみの池上彰氏だ。
池上彰氏が『資本論』の入門書を書いているとは驚きだったが、〝『資本論』入門〟関連書のなかでは群を抜いてわかりやすい。
それは、文章が平易だということもあるが、私たちの日常生活に即して解説されているということが大きい。
わかりにくい用語や文章の連続である『資本論』を実際に読み始める前に、まずは本書『高校生からわかる「資本論」』を参照してみるとよいだろう。
『マルクス 資本論』(シリーズ世界の思想)
著者は、マルクス経済学が専門の佐々木隆治氏だ。
その佐々木隆治氏が、マルクス自身が著し、完成させた『資本論』の第一巻を、テキストに即して解説したのが、本書『マルクス 資本論』である。
労働運動や共産主義運動の都合によって歪められてきたマルクスの見かたの〝真の姿〟を知ることができるだろう。
オススメの翻訳書
マルクスの『資本論』の翻訳書は、いろいろな出版社から出ているが、読みやすさと入手のしやすさという2つの観点からすると、国民文庫版一択だと思う。
たしかに岩波文庫版という選択肢もあるが、これは国民文庫版の訳者・岡崎次郎氏が下訳したものを向坂逸郎氏が監訳したものだ。
一方、岡崎次郎氏は、岩波文庫版のために提供した下訳をさらに改善し、それが国民文庫版となった。
そのぶん、国民文庫版のほうがすぐれているのではないかと思う。