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ウィトゲンシュタイン入門の最短ルート【先に結論】
初めて学ぶなら、入門書で前期と後期の違いを知り、そのあと『論理哲学論考』『哲学探究』の順に進むのがおすすめです。最初の1冊には、橋爪大三郎『はじめての言語ゲーム』が向いています。
| 段階 | 最初に読む本 | 次に読む本 | 目的 |
|---|---|---|---|
| 1.全体像 | 『はじめての言語ゲーム』 | ― | 生涯と前期・後期の変化を知る |
| 2.前期哲学 | 古田徹也『論理哲学論考』 | 光文社版『論理哲学論考』 | 写像理論と言語の限界を学ぶ |
| 3.後期哲学 | 『哲学探究』入門 | 講談社版『哲学探究』 | 言語ゲームと生活形式を学ぶ |
『論理哲学論考』と『哲学探究』は考え方も書き方も異なります。最初から原典を2冊続けて読むより、各段階で解説書を1冊はさむと変化を理解しやすくなります。
初心者向けの読む順番
- 『はじめての言語ゲーム』で前期・後期を通した問題意識をつかむ
- 古田徹也氏の解説書で『論理哲学論考』の骨格を知り、光文社版の原典を読む
- 中村昇氏の入門書で後期哲学を知り、講談社版『哲学探究』へ進む
- 関心が深まったら、野矢茂樹氏の解説書や『続・哲学探究入門』で補う
ウィトゲンシュタインがもたらした「言語論的転回」とは?
前回の記事「ハイデガー『存在と時間』をはじめて読む人にオススメの入門書&翻訳書&副読本」のなかで、ハイデガーが「20世紀最大の哲学者の1人だと言われている」と紹介したが、もう1人、「20世紀最大の哲学者」と言われているのが、ウィトゲンシュタインである。

ウィトゲンシュタインが「20世紀最大の哲学者」(の1人)と言われるのは、哲学の世界に「言語論的転回」をもたらしたからだ。
「言語論的転回」とは、意識が言語に先行するという「意識分析」から、言語が意識を構成するという「言語分析」へ転回したことをいう。
たとえば、あなたの目の前にコップがあるとする。
従来の哲学では、コップという存在の認識がまずあって、それで「コップ」という名前がつけられたと考えられてきた。
しかし、言語論的転回を経たあとは、「コップ」という名前があるからコップの存在を認識できると考えられるようになった。
つまり、ウィトゲンシュタインは、言語に先立つ意識はなく、また、意識に先立つ対象はないと考えたのである。
前期と後期に分けられるウィトゲンシュタインの哲学
ウィトゲンシュタインの哲学は前期と後期に分けられる。
前期哲学においてウィトゲンシュタインは、世界は言語によって表わされていると考えた。
つまり、言葉と対象は1対1の関係=「写像関係」にあり、自分自身の世界の範囲は自分自身が使っている言語の範囲と一致する。
よって、すべての出来事は言語として表され、それで自分の世界が形づくられている――
そう考えたのである。
この前期哲学の考え方が示されているのが、『論理哲学論考』である。
その後、ウィトゲンシュタインは、前期哲学における考え方を180度改め、言葉と対象は1対1の関係にはなく、どんな生活をしているか=「生活形式」に従って意味が決まってくると考えるようになった。
この考え方が、いわゆる「言語ゲーム」論である。
そして、言語ゲーム論が展開されているのが『哲学探究』なのである。
最初の1冊:『はじめての言語ゲーム』
向いている人:ウィトゲンシュタインを初めて学び、前期と後期の違いを知りたい人
難易度:やさしい
選ぶ理由:生涯と問題意識を追いながら、言語ゲーム論を日常的な言葉で学べる
ウィトゲンシュタインの哲学は、前期から後期にかけて大きく変化した。
そのため、写像関係論と言語ゲーム論そのものの理解もさることながら、なぜウィトゲンシュタインの哲学が変化したのかを理解することが、ウィトゲンシュタイン哲学入門のカギとなる。
なぜなら、その変化の理解こそが、そのままウィトゲンシュタインの問題意識の解明に通じるからだ。
その理解を得るにふさわしい入門書が、橋爪大三郎氏の『はじめての言語ゲーム』である。
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橋爪大三郎氏は社会学者で、言語ゲーム論を社会システム論として適用するのが目的のようだが、もっともわかりやすいウィトゲンシュタイン哲学の入門書となっている。
ウィトゲンシュタインがどのように生き、何に悩み、そしてどう考えたか、また、なぜ考え方が大きく変わったのかということが明確に示されている。
本書『はじめての言語ゲーム』は、とにかく記述が平易なのが特徴だ。
橋爪大三郎氏は、『はじめての構造主義』や『政治の哲学』などでもそうだが、特に入門書においては、むずかしい内容でも専門用語を使わず、日常的な言葉で記述する。
専門用語を使う際には、必ずわかりやすい解説が添えられる。
その書き方が、本書『はじめての言語ゲーム』においてもいかんなく発揮されており、文字どおり中学生からでも読むことができる。
前期:『論理哲学論考』の解説書と翻訳
ウィトゲンシュタインの著作は、独特な構成と文体から成る。
『論理哲学論考』では、「1」「1.1」「1.11」「2」……と番号がふられた箇条書きの文体が、延々と続く。
まとまって意味をなしている箇所もあるが、そのまま読んでいっても、何がなんだかわからない。
良質な解説書の助けが必須である。
『ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』を読む』
向いている人:『論理哲学論考』の議論を深く、筋道立てて理解したい人
難易度:標準~高い
選ぶ理由:原典のロジックを著者独自の解釈も交えて再構成し、考える過程を追体験できる
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著者は、『まったくゼロからの論理学』『哲学の謎』など数多くの著作がある哲学者の野矢茂樹氏である。
その野矢茂樹氏が、『論理哲学論考』に通底するロジックを、著者なりにできるかぎり明確に示しているのが、本書『ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』を読む』である。
〝自分のゼミに参加しているかのような体験をしてほしい〟という想いで書いたらしいが、まさにそのとおりの出来となっている。
2006年の刊行以来、ロングセラーとなっているのもうなづける。
『ウィトゲンシュタイン 論理哲学論考』(シリーズ世界の思想)
向いている人:論理学の予備知識に自信がなく、まず『論考』の骨格を知りたい人
難易度:やさしい~標準
選ぶ理由:初読者が必要とする準備知識と中心部分を選び、順序立てて解説している
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著者は、ウィトゲンシュタイン研究が専門で、『はじめてのウィトゲンシュタイン』という著作もある古田徹也氏である。
その古田徹也氏が、ウィトゲンシュタイン哲学や、その理解の前提となる哲学と論理学に関する知識がまるでない読者でも理解できるように、『論理哲学論考』の「骨」となるポイントをていねいに解説しているのが、本書『ウィトゲンシュタイン 論理哲学論考』である。
その代わり、論理学や数学の知識が要求される箇所は省略されているが、わかりやすさはピカイチである。
『論理哲学論考』の解説書として、〝第2の定番〟となるだろう。
光文社古典新訳文庫版『論理哲学論考』
向いている人:前期の原典を、平明な日本語と導入解説つきで読みたい人
難易度:高い
選ぶ理由:丘沢静也氏の訳文に加え、野家啓一氏による高校生向けの解説を収録している
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ウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』の翻訳は、いくつかの出版社から刊行されているが、そのなかでも岩波文庫版と光文社古典新訳文庫版が、どちらも手ごろ、かつ、良訳である。
なのに、光文社古典新訳文庫版のほうを推すのは、原文のニュアンスに忠実だからということもあるが、冒頭に収録されている哲学者・野家啓一氏による解説「高校生のための『論考』出前講義」が理解の大きな助けになるからである。
野家啓一氏の解説を読むためだけに光文社古典新訳文庫版を買ってもいいくらいだと思う。
後期:『哲学探究』の解説書と翻訳
ウィトゲンシュタイン後期哲学の代表作『哲学探究』も、『論理哲学論考』同様、番号がふられた箇条書きの羅列である。
内容にはある程度のまとまりがあり、言語ゲーム、論理学、規則、私的言語、心理学に大別される。
そして、そうしたテーマに即して、自分の問題意識をとことん書きつづっているのが特徴だ。
『ウィトゲンシュタイン『哲学探究』入門』
向いている人:言語ゲームや私的言語など、後期哲学の重要部分を先に知りたい人
難易度:標準
選ぶ理由:『哲学探究』の重要な節を一つずつ読み、後期哲学の考え方を具体的につかめる
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著者は、ウィトゲンシュタイン、ホワイトヘッド、ベルクソンといった英米哲学が専門で、『ウィトゲンシュタイン、最初の一歩』といった良質な入門書を著している哲学者・中村昇氏である。
本書『ウィトゲンシュタイン『哲学探究』入門』は、『哲学探究』を始めから終わりまでまんべんなく解説しているわけではない。
693ある箇条書き=節のうち、1-40節、65-71節、243-258節に絞り、1節ずつていねいに解説している。
『哲学探究』のうちの1割程度しか取り上げられていないにもかかわらず、ウィトゲンシュタイン後期哲学の特徴がはっきりわかるように書かれている。
ウィトゲンシュタインの人柄や生き方がわかる記述もあり、入門書にふさわしい。
『続・ウィトゲンシュタイン『哲学探究』入門』
向いている人:前著を読み終え、意思疎通や心理に関する議論まで進みたい人
難易度:標準
使い方:最初の入門書の続編として読み、原典へ進む前の理解を補う
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本書『続・ウィトゲンシュタイン『哲学探究』入門』は、上記『ウィトゲンシュタイン『哲学探究』入門』の続篇である。
143節「意思疎通の可能性」から336節「純粋な文」が対象で、取り上げられているのは、そのうちの20節だ。
約1割の節しか取り上げられていないにもかかわらず、ウィトゲンシュタイン後期哲学の特徴がはっきりわかるように書かれてあるのは、前著同様である。
2冊を読めば、『哲学探究』を読むための事前準備は充分に整うだろう。
講談社版『哲学探究』
向いている人:後期の原典を、全体構造と節同士の関係を確認しながら読みたい人
難易度:高い
選ぶ理由:見出しと解説を補い、各節が議論のどこに位置するかを追いやすくしている
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『哲学探究』の翻訳でもっともオススメなのが、講談社版である。
訳者は、『ウィトゲンシュタインはこう考えた』などの著作があるウィトゲンシュタイン研究の第一人者・鬼界彰夫(きかい・あきお)氏だ。
この講談社版が他の『哲学探究』の翻訳書と大きく異なるのは、『哲学探究』という書物が暗にもつ全体的構造のなかで、1つ1つの節がどのような位置にあり、また、お互いどのように関連しあっているのかを、見出しや注を挿入することによって明示した点だ。
そのため、「できるだけウィトゲンシュタインの哲学的思考が明確になることを心掛けました」(「訳者まえがき」)という訳文そのものの効果とあわせ、他の翻訳書よりも確実になじみやすくなっている。
よくある質問
ウィトゲンシュタイン初心者は、どの本から読むべきですか?
最初は『はじめての言語ゲーム』がおすすめです。生涯と前期・後期の変化を一冊で知り、どちらの主著から深めたいか判断できます。
『論理哲学論考』と『哲学探究』の違いは何ですか?
『論理哲学論考』は前期の主著で、世界と言語の論理的な関係を扱います。『哲学探究』は後期の主著で、言葉の意味を実際の使用や生活形式から考えます。
原典は『論理哲学論考』から読むべきですか?
前期から後期への変化を追いたい場合は『論理哲学論考』から読むと理解しやすくなります。ただし、言語ゲームに関心があるなら、解説書を使って『哲学探究』から始めても構いません。
解説書を1冊ずつ選ぶなら、どれがおすすめですか?
前期は古田徹也『ウィトゲンシュタイン 論理哲学論考』、後期は中村昇『ウィトゲンシュタイン『哲学探究』入門』が最初の副読本に向いています。
同じ20世紀哲学のハイデガーも読む
言語から哲学を変えたウィトゲンシュタインと並び、存在の問いを捉え直した哲学者がハイデガーです。比較して学びたい場合は、ハイデガー『存在と時間』の入門書・翻訳・副読本も参考にしてください。
まとめ
- 最初の1冊は『はじめての言語ゲーム』
- 前期は解説書を読んでから光文社版『論理哲学論考』へ
- 後期は『哲学探究』入門を読んでから講談社版の原典へ
- 一度に全部読まず、入門・前期・後期の3段階で進める







