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「動物解放論」を唱えたピーター・シンガー
「西洋哲学史と倫理学の基礎知識」のなかの「ヘア」の項で、ピーター・シンガーの「動物解放論」について言及したが、その内容については解説していなかったので紹介したい。
ピーター・シンガー(Peter Singer、1946~)は、オーストラリア出身の倫理学者である。
功利主義の立場から現代社会における倫理の問題を探究している。
その彼のもっとも有名な主張が、『実践の倫理』や『動物の解放』のなかで唱えられ、ベンサムの功利主義の考え方を援用した「動物解放論」である。
ベンサムの功利主義
ベンサムは、快楽を善、苦痛を悪と考えた。
そして、「最大多数の最大幸福」を唱え、社会全体の幸福を最大化することをめざした。
その根底にあるのは、すべての人を〝1人〟として数え、それ以上として数えず、行為の影響を受けるすべての存在の利益を平等に配慮しなければならないという平等主義の考え方である。
ベンサムは、この平等主義の考え方を人間のみならず、快楽や苦痛を感じることができる生きものにも適用した。
人間とその他の生きものの平等な共生にとっては、苦痛を感じることができるかどうかという基準が重要だと考えたからである。
そして、言葉を使って思考することができる理性をもつかどうかという基準だけで人間とそれ以外の生きものを区別する「種差別」に反対した。
シンガーの考え方
シンガーは、こうしたベンサムの考え方にもとづき、〝苦痛を感じることができる生きものには可能なかぎり苦痛を与えてはならず、また、仮に苦痛を与える場合でも、最小限にとどめるべきだ〟と考えた。
これが、シンガーの動物解放論の核である。
ただし、シンガーは、人間もその他の生きものも「平等な扱い」をされなければならないと考えたわけではない。
そうではなく、「平等な配慮」をされなければならないと考えた。
ある生きものには配慮するが、別の生きものには配慮しないというのは、不平等だからである。
これは、人種や性別の相違によって人を差別してはならないという主張と同じで、人間か否かという相違によって生きものを差別してはならないという主張であり、また、それぞれの生きものに固有の権利と価値を認めることでもある。
シンガーは、こうした考え方にもとづき、工場畜産や動物実験に見られるような動物虐待や、動物を殺して食べる肉食をやめるべきだと主張した。
問題点
シンガーが言う「平等な配慮」の範囲は、どこまでであろうか?
範囲を線引きする基準は、〝苦痛を感じることができるかどうか?〟にある。
具体的にシンガーは、哺乳類、鳥類、爬虫類、魚類、甲殻類(カニやエビなど)までは、その範囲に含めるが、軟体動物(カキやホタテなど)は範囲外とする。
しかし、こうした区別にはシンガー自身の恣意性が認められるうえに、新たな種差別を持ち込んでいるという批判がある。