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『存在と時間』の本選び【先に結論】
初めて学ぶなら、貫成人『ハイデガー』で全体像を知り、轟孝夫『ハイデガー『存在と時間』入門』で各章の流れをつかんでから、光文社古典新訳文庫版の原典へ進むのがおすすめです。
| 本 | 向いている人 | 難易度 | 役割 |
|---|---|---|---|
| 貫成人『ハイデガー』 | 知識ゼロから始める人 | やさしい | 生涯と哲学の全体像を短く知る |
| 『存在と時間』入門 | 主著の議論を詳しく知りたい人 | 標準 | 章立てに沿って内容と未完の理由を学ぶ |
| 光文社古典新訳文庫版 | 原典そのものに挑戦したい人 | 高い | 小見出しと詳しい解説を頼りに本文を読む |
初心者向けの読む順番
- 貫成人『ハイデガー』で、存在の問いと前期・後期を含む全体像を知る
- 轟孝夫『ハイデガー『存在と時間』入門』で、原典の章立てと論点を先に確認する
- 光文社古典新訳文庫版を第1巻から読み、副読本の対応箇所も参照する
- 一度に理解し切ろうとせず、「現存在」「世界内存在」「死」「時間性」の順に要点を整理する
原典は全8巻あるため、最初から全巻をそろえる必要はありません。まず入門書と副読本で相性を確認し、原典は第1巻から一冊ずつ進めると負担を抑えられます。
未完の書『存在と時間』の本来の目的とは?
ハイデガーは、20世紀最大の哲学者の1人だと言われている。
西洋哲学では古代から存在について論じられてきた。しかしハイデガーは、個々の存在者を論じる一方で、存在そのものの意味を問う課題が忘れられてきたと考え、この問いを改めて哲学の中心に置いた。
ハイデガーは、存在はさまざまに語られてきたが、その語られる対象となっている存在がいったい何であるか――「ある」という言葉を聞いて何を思い描くか――という「存在の意味への問い」は忘れ去られていると考え、自分がその問いに答えようとしたのである。
そのためにハイデガーが著したのが、『存在と時間』だ。
『存在と時間』は、序論、第1部(第1篇から第3篇)、第2部(第1篇から第3篇)という構成で構想された。
第1部第1篇では、人間というのは気づいたときにはすでに現に存在している「現存在」で、つねにある状況と関わっている「世界―内―存在」であるが、日常のなかに埋もれ、何かの目的を達するための道具だと自己了解し、「ひと」(ダス・マン)にすぎなくなっていることが語られる。
続く第2篇では、「ひと」から脱し、本来の自己了解を取り戻すには、「死」への不安を自覚することが必要で、そのためには「死」の可能性を先んじて了解する「先駆的決意性」をもつことが重要だと説かれる。
つまり、ハイデガーは、死を意識して時間の有限性に気づき、自分が「死へ向かう存在」だと自覚することが、人間本来の生き方をもたらすと考えたのである。
そして、次の第3篇では……と言いたいところだが、実は、公刊されたのは、第1部第2篇までである。
つまり、『存在と時間』は、全体の構想のうちの半分程度しか書かれていない未完の書なのだ。
こうした事情から、『存在と時間』は、現存在を分析した実存哲学の書として受け取られることになった。
しかし、すでに述べたように、その本来の目的は「存在の意味への問い」の解明にあったのである。
なお、未完の部分で何がどのように考察されるはずだったかは、その後の講義録や著作から推測することができる。
最初の1冊:貫成人『ハイデガー』
向いている人:ハイデガーを初めて学び、まず短い一冊で全体像を知りたい人
難易度:やさしい
選ぶ理由:約130ページで『存在と時間』だけでなくハイデガー哲学全体を見渡せる
ハイデガーの『存在と時間』は、カントやヘーゲルの著作同様、難解この上ない。
だから、いきなり『存在と時間』を読む前に、ハイデガーはどのような哲学を展開したのか、『存在と時間』がどんな内容なのかをざっと理解しておく必要がある。
そのためのオススメの入門書が、『ハイデガー』(入門・哲学者シリーズ)である。
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著者は、『哲学マップ』『図説・標準 哲学史』といった哲学入門書を数多く著している哲学者の貫成人(ぬき・しげと)氏である。
『存在と時間』の内容だけでなく、ハイデガー哲学の全体像が、約130ページの分量のなかで、コンパクトに、とても平易な言葉で示されている。
ハイデガー哲学の入門書は数あれど、ダントツでわかりやすいと思う。
原典:光文社古典新訳文庫版『存在と時間』
向いている人:入門書を読んだあと、原典の文章を自分で確かめたい人
難易度:高い
選ぶ理由:段落ごとの番号と内容を要約した小見出し、詳しい解説があり、議論の位置を見失いにくい
入門書で『存在と時間』に関する知識をひととおり身につけても、やはり初学者が読み進めるには、わかりやすい翻訳はもちろん、懇切丁寧な解説によるサポートが必要だ。
そうしたニーズに数ある翻訳書のなかでもっとも応えているのが、光文社古典新訳文庫版である。
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各段落には、その段落の内容を要約した小見出しがつけられ、段落ごとに解説がついている。
だから、本文の筋を見失うことなく、訳者・中山元氏の手厚いサポートを受けながら、読み進めていくことができる。
解説は本文の1.5倍くらいあって懇切丁寧だが、それでも読み進めていくのは時間がかかる。
しかも、全部で8巻!
腰を据えてじっくり読んでいくのがよいだろう。
副読本:轟孝夫『ハイデガー『存在と時間』入門』
向いている人:専門用語だけに頼らず、原典の章立てに沿って内容を理解したい人
難易度:標準
使い方:原典を読む前に全体を通読するか、光文社版と並べて対応する論点を確認する
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著者は、ハイデガーの研究者である轟孝夫(とどろき・たかお)氏である。
轟孝夫氏は、本書『ハイデガー『存在と時間』入門』の執筆に10年かけたという。
それは、ハイデガー独自の用語をできるかぎり避け、日常的な言い回しで解説するためだったらしい。
その尽力の結果、『存在と時間』の内容がかなり身近に感じられ、ハイデガーがどのように考えたのかも理解しやすくなっている。
400ページを超えるページ数だが、『存在と時間』と併読していくと、ハイデガーが何を言いたかったのかがクリアに見えてくる良書だ。
よくある質問
『存在と時間』初心者は、どの本から読むべきですか?
まず貫成人『ハイデガー』がおすすめです。短い一冊で全体像を知ったあと、轟孝夫氏の副読本へ進むと、原典の論点を追いやすくなります。
初心者がいきなり原典を読んでも大丈夫ですか?
読めないわけではありませんが、独自の用語と議論の構造が難しいため、入門書か副読本を一冊はさむ方が挫折しにくくなります。原典では小見出しと解説のある光文社版が便利です。
光文社版は全8巻を一度に買う必要がありますか?
最初から全巻をそろえる必要はありません。まず第1巻を読み、訳文や解説が自分に合うことを確認してから一冊ずつ進めれば十分です。
『存在と時間』は未完でも読む意味がありますか?
あります。公刊部分だけでも、現存在、世界内存在、死、時間性など、その後の哲学に大きな影響を与えた議論が展開されています。未完になった理由は轟氏の副読本でも詳しく扱われます。
20世紀哲学を別の角度から読む
存在の問いを中心にしたハイデガーと、言語の働きを問い直したウィトゲンシュタインを並べて学ぶと、20世紀哲学の二つの大きな流れが見えやすくなります。ウィトゲンシュタインのおすすめ入門書と読む順番も参考にしてください。
まとめ
- 最初の1冊は、全体像を短く学べる貫成人『ハイデガー』
- 次に轟孝夫『ハイデガー『存在と時間』入門』で原典の流れを知る
- 原典は、小見出しと詳しい解説のある光文社古典新訳文庫版で一冊ずつ進める
- 難しい箇所は止まり続けず、副読本の対応箇所へ戻って理解を補う



