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『ツァラトゥストラ』はニーチェの主著
ニーチェには数多くの著作がある。
それらの著作を年代順に読んでいくことは、ニーチェの哲学の展開をそのままたどることと同じである。
最初の著作『悲劇の誕生』では、ショーペンハウアーの哲学とワーグナーの音楽に心酔し、彼らを「神」のように崇拝したニーチェが、ギリシア悲劇を題材に、芸術と文化の意味を求めた。
続く『反時代的考察』では、ヘーゲルを頂点とする「歴史主義」を批判し、芸術と文化にもとづく人間のあり方を求めた。
しかし、ワーグナーと決別し、それまでの理想が失われると、今度は一転して、『人間的、あまりに人間的』シリーズのなかで、自分自身がもっていた価値や世の中の価値を根本から疑うようになる。
そのうち、否定的なだけの感情から抜け出していくなかで、『曙光』『悦ばしき知識』を著し、またふたたび物事を肯定するようになっていく。
そして、ニーチェは、主著『ツァラトゥストラ』を書き上げることになる。
この著作では、ニーチェ自身が再構築した理想や価値が、「ツァラトゥストラ」というゾロアスター教の創始者の名を借りて(名前以外は本書とゾロアスター教とは何の関係もない)、新約聖書の文体をまねて語られる。
なぜそんな書き方をしたのかというと、ニーチェは、本書『ツァラトゥストラ』で、旧来の価値観や道徳観の根源であるキリスト教(の道徳)に代わり、神なき新しい時代の価値基準=生き方を提示しようとしたからだと言われている。
その新しい価値基準=生き方のキーワードとなっているのが、「神は死んだ」「超人」「永遠回帰」である。
本書『ツァラトゥストラ』の文体は、決してむずかしくはない。
でも、内容は難解だ。
そのため、本書『ツァラトゥストラ』は、人びとになかなか理解されなかった。
ニーチェがその後に著した『善悪の彼岸』『道徳の系譜学』は、本書『ツァラトゥストラ』の解説書として位置づけられる。
つまり、この2冊に書かれている内容は、すでに『ツァラトゥストラ』のなかに示されていて、その理解の助けとなっているのである。
ニーチェは、『ツァラトゥストラ』の内容を、なんとしてでも世に示したかった、あるいは後世に遺したかったのだろう。
『ツァラトゥストラ』が、ニーチェの主著たるゆえんである。
なお、『ツァラトゥストラ』は複数の出版社から翻訳が出ているが、岩波文庫版は『ツァラトゥストラはこう言った』、新潮文庫版は『ツァラトストラかく語りき』という表記となっている。
オススメの翻訳書
光文社古典新訳文庫版
もっとも訳がこなれていて、読みやすいのが、光文社古典新訳文庫版だ。
本書以前に刊行された翻訳書の文体は、どれも訳者である学者特有の〝論文のような文体の硬さ〟がまとわりついているが、光文社古典新訳文庫版は、よりカジュアルな文体となっている。
そのことが読みやすさにつながっているのだろう。
中公文庫版
中公文庫版のウリは、充実した訳注にある。
光文社古典新訳文庫版は、文体がもっともこなれていて読みやすいのだが、やはり意味がつかみにくいところがある。
一方、中公文庫版は、ニーチェに関する知識がない読者を想定して、意味がつかみにくい、あるいは、素通りしてしまいそうな重要な箇所に適宜、注がつけられ、章末で確認することができる。
また、字体が大きめなのは、老眼が進んだぼくのような人間にとってはうれしい。
ひょっとしたら、光文社古典新訳文庫版で本文を読みながら、中公文庫版を副読本的に使うというのが、贅沢な方法だが、初学者には理想かもしれない。
講談社まんが学術文庫版
いきなり文字だけの翻訳書を読むのはキツイと思うのなら、講談社まんが学術文庫版がある。
プロサッカー選手をめざす少年カツキが数々の挫折を味わいながら青年になっていく過程で、正体不明の謎の「おじさん」が現れ、「神は死んだ」「ニヒリズム」「末人」「超人」「永劫回帰」(マンガのなかでは「永遠回帰」ではなく「永劫回帰」と表記される)というニーチェの概念をカツキに教え、カツキは自己を超える努力をする生き方を選びとっていくというストーリーである。
ニーチェの概念を個人の生き方に落とし込むと、具体的にどう表現できるかというサンプルが示されていて、理解の大きな助けになる。
なお、講談社まんが学術文庫版のタイトルは、『ツァラトゥストラはかく語りき』である。
オススメの解説書
『NHK「100分de名著」ブックス ニーチェ ツァラトゥストラ』
著者は、『実存からの冒険』『哲学は対話する』など数多くの著作がある哲学者の西研氏だ。
『NHK「100分de名著」ブックス ニーチェ ツァラトゥストラ』では、『ツァラトゥストラ』に書かれている内容のポイントとなる箇所を解説し、それをふまえながら、西研氏自身の考えも語っている。
そのため、『ツァラトゥストラ』に示されたニーチェの哲学を、グッと身近なものとして受け取ることができるのが大きな特徴である。
巻末には、精神科医の斎藤環(さいとう・たまき)氏との対談が収められている。
斎藤環氏の「超人」=「完璧なひきこもり」観は、とてもユニークで、ハッとさせられた。
『この人を見よ』
本書『この人を見よ』は、当時の世間からほとんど認められなかったニーチェが、自分自身の哲学と著作を知ってもらう目的で著した自伝である。
そのなかで、ニーチェは、『ツァラトゥストラ』(や他の著作)をどのような構想と意図のもとに執筆したか、また、「超人」や「永遠回帰」といった概念がどのようなものであるかについて、自身の言葉で解説している。
これ以上の正確な解説はないであろう。